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「お前らなにやってんだ。邪魔だ、脇よれ」
「あ水木センセ」
「・・・ども」
「こんなとこで何してんだ。公共マナーを考えろ」
 じゃぁなとばかりに手を振って生徒の群れへ紛れようとする水木を
 満帆は階段の段差を利用して、襟首を掴んで引き止めた。
「水木センセ、視聴覚委員会立ち上げちゃダメですか?」
「んーあぁさっきなんか喚いてたやつか?いんじゃねーの」
 水木は生徒に襟首掴まれているというのにそんなことは全く気にせず、常と変わらぬ様子で
 満帆にその代わり、と私を指差して
「こいつと、あと3人は必要だな。
 古い少年漫画じゃねぇけど、必要最低限の人数は集めろ。集まったらやってもいーぜ」
 と笑った。
「・・・え?」
 満帆は唖然としている。
 とりあえず思わぬ満帆の好況に、水木の気が変わる前に首を掴んでいた手を離させ
「先生、さっき満帆にだめだって言われたって聞いたんですけど」
 と一応確認してみる。
「だめとは言ってねぇよ。あとでなってったんだ」
 じゃぁ俺要請書書いてくるから。と言い残して水木は、とてもあっさりと
 放心状態の満帆を置いて、生徒の群れに流されていってしまった。
「あー・・・・・・満帆サン?」
 中々満帆が再起動しないので、あたしは満帆の前で手を振ってみる。
 反応がない。ていうか寧ろまばたきがない。
「んー」
 あたしはちょっと悩むと、満帆を往来の邪魔にならないようにってのも考えて
 背後から突き飛ばした。今度は不可抗力じゃなくて、かなりわざと。
「ふぎゃぁっ!」
 満帆はまた半階分下に落ち、階段の防火扉に思いっきりぶつかった。痛そうな鈍い反響。
 咄嗟に手が出たりは・・・・・・しなかったらしい。追いかけると顔面がつぶれていた。
 ずるずるとしゃがみこんだ満帆は頭を抱えて唸りはじめた。
 何事かとちらちらみてくる生徒に、あたしは愛想良く微笑みかけて対応する。
「うぅ? あれ、なんで落ちてんのあたし?」
 良かった、満帆は少し記憶がとんだらしい。
「満帆、きゅうにふらついて大丈夫? そんなにびっくりしたの?」
 これみがよしにあたしは背を曲げ、満帆の背中をさすり心配してみる。
 どうやらあたしはドSとかいうものらしい。満帆を時々無性に、こんな風にしていじめたくなる。
「つぁ~・・・・・・ありがと楓。うーぃよっし! 部員、もとい委員集めに早速行こう!」
「うぐっ!!」
 元気に、それは元気に立ち直りの早い楓は立ち上がった。
 満帆の顔を上から覗き込んで、甲斐甲斐しく背中をさすっていたあたしの顎に
 よける暇なんてあるわけもなく、容赦なしに頭がクリーンヒットする。
「あっきゃぁ! ごめん楓大丈夫っ?」
 慌てたようにあたしに、可愛らしく口元を押さえて小さく叫んだ満帆の顔は
「ふ、ふふ、だいじょうぶよ満帆」
 くらくらとおぼつかない足取りで壁によろけたあたしをみて、してやったりと、笑っていた。
 ・・・・・・いつからだろう、満帆を天然じゃなく計算だと疑い始めたのは。
 あたしなんかより、よっぽどこいつのほうがドSなんじゃないだろうか。
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2010.02.20 (7)
 「もうすぐお狐舞いの時間じゃなぁ」
 活気溢れる祭りを眺めていた老人が、空を見上げて呟いた。
 「母ちゃん、今年もお狐さまくるのー?」
 リンゴ飴の屋台に並ぶ子が、親に聞く。
 「そろそろ店閉めるかぁ」
 まだ客の並ぶ屋台が、店じまいを始めた。
 「ぼうや、ごめんな。お狐さまの邪魔になるからもう店閉めるよ」
 金魚すくいに励んでいた子供に、店主が話しかける。
 「えぇーぼくまだ掬えてないよ」
 子供が不平そうに返すと、
 「あんた、お狐さまに山へ連れてかれちまうよ」
 傍で見守っていた母親が脅し、仕方なく子供は立ち上がった。
  そうして段々と人が引けた通りは、さっきとは打って変わって静かになり
 さわさわと風の吹く音や、家屋の中の音が聞こえる。
 完全に人の姿がなくなると、暗闇に包まれた通りは月に照らされ白く輝いていた。
 家の戸をほんのすこし開き、きょろきょろと通りを見やりながら
 住人はそれぞれ、お狐さまへのお供え物を軒先に置いたり
 通りに走り出そうとする子供をおさえる親が戸をぴしゃんと閉めたりと
 皆一様になにかを期待しているそぶりで、その時を待った。

  しゃん。しゃん。しゃん
 閑散とした通りに鈴の音がする、白衣が風になびく、下駄が鳴る、狐火が次々と現れ通りを照らす
 「美しきー月に照らされー我は往くー」
 姿なき声が通りを先行し、けらけらと笑い声が響いた
 笑い声は、そのまま不思議な旋律で歌を紡ぎだす
 しかし、通りに人影はない
 普段聞きなれた唄は、白狐が歌うことによって別次元の唄となり、
 酔ったようなその歌声は、ふらふらとしつつも凛としていて芯があった
 ――子ぎつね コンコン 山の中 山の中
   草の実 つぶして お化粧 したり
      もみじの かんざし――
 「お恵みーお恵みっ」
 ふと歌をやめ、高らかにそう叫ぶ声がすると、ばっと通りの真ん中に白狐が降り立つ
 家々の軒先にだっと駆けてゆくと、嬉しそうに恍惚とした表情でお供え物を抱きしめ、
 赤ん坊を抱くように持っていたかと思うと、後ろに放った
 放られた供え物は、真っ黒な影に受け止められる
 幾度かそれを繰り返し、一通り供え物を自ら回収した白狐は、満足そうに微笑んで白衣を翻し踊りだした
 緩やかに手足を伸ばして背を大きく反らすと、
 ふわりと軽やかに、後ろへ上体を倒して一回転し
 ゆっくりとした動きで伸びやかに手を広げていたかと思うと
 颯爽と跳び上がり、くるくると回りながら落ちてきて、膝を屈伸させて衝撃を和らげ着地する
 とんとんとんと、小刻みに足を前後に動かし複雑な足運びをしながら
 腕を蝶の翅のように羽ばたかせ、白衣を躍らせた
 白狐の動きに合わせて、高下駄の底がからんころんと鳴った。
 時に見るものを圧倒する力強さを見せつけるように
 時に母のような、慈しみの表情を浮かべて和やかに舞う
 始終絶えず笑みを散らして、白狐は陶酔した面持ちで舞い続けた
  しゃん。しゃん。しゃん
 始まりと同じように鈴の音が鳴り、白狐は少しずつ動きを遅めた
 やがて動きが止まると、唄を残して白狐は消えた
 静まり返った通りには、狐火が煌々と照っていた
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